◆ プロローグ──ふと思い出して胸がざわつく、あの一言
「あんたって、ほんとに要領悪いよね」
中学生のときに言われたその一言が、今もなお、頭のどこかでこだまし続ける。
仕事で小さなミスをしたとき、誰かと意見が食い違ったとき、
あのときの感情が突然、心をかき乱す。
なぜ、何年も前の言葉が、こんなにも自分を縛るのだろう?
それには、ちゃんと“脳のしくみ”という理由があります。
◆ 脳は「感情と結びついた記憶」を深く刻む
人間の脳は、すべての情報を均等に記憶しているわけではありません。
感情が強く動いた出来事ほど、記憶に深く残るようにできています。
例えば、怒られた、恥をかいた、バカにされた……。
そのときに感じた「悔しさ」「悲しさ」「恐怖」は、脳内の偏桃体(へんとうたい)を強く刺激し、記憶の中枢である海馬と連携して“消せない記憶”として刻まれます。
だからこそ、「たった一言」が、
まるで傷跡のように、何年も心の中に残ってしまうのです。
◆ 忘れられないのは「あなたが弱いから」じゃない
「もう昔のことなのに、なぜまだ気にしてるんだろう」
そうやって、自分を責めてしまう人も少なくありません。
でも、それは決してあなたの心が弱いからではないのです。
脳は「もう二度とあんな思いをしたくない」と、防衛本能を働かせます。
似た状況になると、過去の記憶を自動再生して「注意してね」と伝えてくる。
それは、あなたを守るために働いている脳の正常な反応。
忘れられないのは、「感受性が豊かだった証」なのです。
◆ 記憶は“上書き”できる。言葉の力で脳は変わる

では、どうしたらあの言葉の呪縛から自由になれるのでしょう?
鍵は、「言葉の再解釈(リフレーミング)」にあります。
たとえば──
- 「要領が悪い」 → 「ひとつひとつを丁寧に取り組むタイプ」
- 「気が利かない」 → 「慎重に相手の様子をうかがっている」
- 「鈍い」 → 「じっくり考えてから動く人」
こうしてネガティブな言葉を、自分なりの価値として言い換えることで、
脳に刻まれた“否定的な記憶”を、少しずつやわらげていくことができるのです。
脳には「可塑性(かそせい)」という変化する力があります。
思考や言葉が変われば、記憶の意味づけも変わっていきます。
◆ 自分を“許す言葉”を持とう
毎日、心の中で自分にかけている言葉を、少し意識してみてください。
たとえば…
- 「今日もよく頑張ったね」
- 「できない日があっても、それは人間らしさ」
- 「ミスしても、私は私の味方でいたい」
そんな言葉たちは、脳に安心をもたらし、回復のスイッチを入れてくれます。
否定やダメ出しではなく、“許し”と“受容”の言葉を重ねていくこと。
それが、過去の傷ついた記憶を“優しい記憶”に書き換える近道です。
◆ 「誰かの一言」ではなく、「自分の一言」で未来をつくる
誰かの言葉に心が揺れることは、誰にでもあります。
でも、これからはその上に、あなた自身の言葉を重ねてください。
「私は私を大切にする」
「もう誰かの言葉に支配されない」
「この声が、私の味方になる」
そう言い聞かせるたびに、脳は少しずつ変わります。
感情の記憶も、新しい選択も、すべては“言葉”から始まる。

◆ まとめ:忘れられない言葉は、癒せる
「あの一言が、今の自分に影響しているかもしれない」
もしそう感じたなら、それは自分を大切にしたいというサイン。
心に残った言葉は、あなたを傷つけもするけれど、
それを見つめ直し、書き換えていくことで、癒しと成長の種にもなります。
忘れられない言葉があるなら、
その隣に、自分への優しい言葉をそっと置いてみてください。
あなたの脳は、あなたの言葉で変わっていけます。
そして、あなたの未来も、そこから優しく変わっていきます。
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