ふだんの“手元”に忍び寄る違和感
朝、いつも通りにスマートフォンを手に取り、LINEを返信しようとしたとき──親指の付け根に「ピリッ」とした鋭い痛みが走る。 「ん?気のせいかな」 そう思って動かしてみると、やっぱり痛い。ズーンと重たい感覚と、鋭い違和感が交互に襲ってくる。
昼、赤ちゃんを抱っこしたときも、パソコンのタイピングをしたときも、買い物袋を提げたときも──日常の“ふとした動き”にいちいち痛みが伴うようになってきた。
「これって、腱鞘炎?」 そんな不安を抱えながらも、仕事や家事に追われて、そのまま様子を見るしかない。 だけど、知らぬ間に、あなたの“日常の舞台”が、痛みに支配されるシナリオへと書き換わっているかもしれません。
あなたと、あなたの手首、そして“痛み”
この物語の主人公は、他でもないあなたです。
- 家事、育児、仕事…毎日手を止める暇もなく、パソコンやスマホ、子どもの抱っこ、調理、掃除に追われている30代〜50代のあなた。
- 忙しさの中で、自分の不調には後回し。つい無理を重ねてきた手首や指。
- そこに現れたのが、“腱鞘炎”というやっかいな相棒です。
とくに多いのが、
- ドケルバン病(親指の付け根に痛み。抱っこやスマホで悪化)
- ばね指(指が動かしづらく、曲げ伸ばしでカクンと引っかかる)
厚生労働省の調査では、女性(30〜50代)で発症率が高く、特に育児中の方、事務職、清掃など繰り返し動作の多い方に頻発することが分かっています。
しかし、腱鞘炎というこの「登場人物」は、単に“使いすぎ”という単語だけで語れる存在ではありません。問題は、もっと奥深くに潜んでいるのです。
データで見る、腱鞘炎の現実
腱鞘炎に悩む人は、決して少なくありません。むしろ、特定の年代やライフステージでは非常に身近な不調です。
状況 | 発症率の目安 |
---|---|
出産後の女性(ドケルバン病) | 約14% |
40〜60代女性のばね指 | 約5〜10% |
事務職・介護・育児などの職業性腱鞘炎 | 約6.6% |
一般人口の生涯発症率(全体) | 約2.6% |
これらの数字が示すように、「一時的な疲れ」や「たまたまの痛み」ではなく、誰にでも起こり得る構造的な問題なのです。

なぜ「使いすぎ」だけでは治らないのか?
腱鞘炎の治療でよく言われるのは「安静にしてください」──確かに一時的には症状が和らぎます。しかし、再び手を使い始めるとまた痛む。
この繰り返しこそが、腱鞘炎を“慢性化”させる最大の原因なのです。
あなたの脳は、痛みの記憶を持ち、同じ動きをするだけで“まだ炎症がある”と誤認識するようになります。つまり、実際には腱の損傷が回復していても、痛みが続くのです。
それが「ペインマトリックス」
私たちの脳は、痛みを「感覚」だけでなく、「記憶・注意・感情・意味づけ」と結びつけて処理しています。
- 「また痛くなるんじゃないか」という不安
- 「痛みを避けるために不自然に力が入る」
- 「指を動かすたびに体が硬直する」
こうした“脳の反応”そのものが、痛みの悪循環を生む。
つまり、腱鞘炎という“肉体の問題”は、実は“脳の習慣”が大きく関わっているのです。
脳からアプローチするセルフケア
私が提案するのは、認知神経学をベースにしたセルフケア。ただのストレッチやマッサージではなく、“脳の誤作動”をやさしくリセットしながら、正しい感覚と動作を再教育していく方法です。
ステップ1:感じることから始める
お風呂の中で、手に湯をかけながら、 「熱さ」ではなく「柔らかさ」や「流れる感じ」に意識を向ける。
この「注意の向け方」が、脳の痛みパターンからの脱却の第一歩です。
ステップ2:鏡で見る & ゆっくり動かす
自分の手の動きを鏡で観察しながら、痛くない範囲で指をゆっくり動かします。 ポイントは、「動きそのもの」ではなく、
- どんな感覚があるか?
- なめらかか?
- 動くことに不安があるか?
そうした“内側の注意”を育てていくことです。
ステップ3:「滑るような感覚」をつくる
指先にパウダーや滑りやすい布を使って、皮膚の上で“滑る”感覚を味わいます。これは脳の「安心マップ」を再構築する作業。
“痛い動作”ではなく、“心地よい動作”を記憶させることで、脳の地図はゆっくりと書き換えられます。
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最後に──あなた自身が“動きの先生”になるために
腱鞘炎は、たしかに物理的な炎症から始まります。 けれど、それを長引かせるのは「動き方」「感じ方」、そして「意味づけ」のクセなのです。
認知神経理論的セルフケアを実践するということは、あなた自身が“動きの観察者”であり、そして“動きの先生”になるということ。
- 「なぜ痛いのか?」を知る
- 「どうすればいいのか?」を考える
- 「こうすればラクかも」を体験する
それが、自分の体を再発から守る最も強い武器になるのです。
もう一度、手を自由に使える未来へ。 あなたの手は、まだ取り戻せます。
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